サウスバウンド / 奥田英朗 | ぶちぶち日記

サウスバウンド / 奥田英朗

アナーキストの父親は、子供の迷惑も顧みず、官に逆らう己が道を驀進中。 生計を支えるのは喫茶店を営むできた妻。 不倫中であまり家に寄り付かない歳の離れた姉と、生意気な妹。 6年生の二郎は、父の引き起こす騒ぎと不良中学生に悩まされる毎日を過ごしています。


二郎が生きる環境は少々特殊ですが、二郎自身は実にまっとうな少年です。 暴力には恐怖を覚え、異性には恥じらいとそっけなさで対処し、父の非常識ぶりには困惑と怒りを覚え、肉には執着し。。。 ユーモアをまじえて軽快に語られる日常に、ページを繰る手が止まりません。 育まれる友情もいい。


主義主張を貫くあまり行く先々で敵を作る父親の、正論でありながら受け入れがたい存在が、この作品のキモです。 東京では生きる場所がない父は、挙句南の島への移住を決行します。 その断固たるスピードもまたおもしろいのですが。 劇的に変わった環境で、家族もまた変わります。 島の人々ののびやかさ、親身さが二郎の視点で幾重にも語られて、説得力があります。 なんだか、うらやましくなるのです。


南の島の空のように、どこまでもつきぬけた爽快な一冊でした。 まさに、サウスバウンド! おおきく、バウンド! この小説が、「最悪」「邪魔」の作家から生まれ出たかと思うと奥田英朗のすごさに感服します。 読み損ねたらいけない本に出会えました。