その名にちなんで / ジュンパ・ラヒリ | ぶちぶち日記

その名にちなんで / ジュンパ・ラヒリ

父親の生涯の転換点となった事故にちなんでつけられた、異国の名前。 「ゴーゴリ」という名のインド系二世の少年とその家族の、いわば大河小説です。

 

彼らが生きるのは、アメリカの地。 因習の国インドの習慣をまとう親世代と、アメリカ人として生きる二世世代が互いに抱く、違和感のようなもの。 愛し愛されながらも、そこに横たわる溝。 少年が疎んじるようになる名前を象徴的に使って、淡々と、しかし染みとおるような細やかさで書き連ねられています。 なんとも不思議なのです。 まるで神が書いた観察日記のように、遠いところから書き留めただけのような文章なのに、登場人物たちの心が手に取るように伝わってくるのです。 


素晴らしい原文なのでしょうが、翻訳者の仕事が、そのテイストまでも見事に訳出しているのではないでしょうか。 あとがきによると、原文はすべて現在形で書かれているそうです。 なるほど、独特の印象はここからくるようですが、それを上手に日本語にしたものです。 翻訳は小川高義さん。 覚えておかねば。


深く悩み続けるわけではないけれど、折に触れ顔を出すアイデンティティの問題。 ゴーゴリが、その拠って立つところを見つけるまでの、忘れがたい道のりにしみじみ感動した一冊でした。